不眠症でお悩みの方へ 〜まずは原因の見極めから〜
もうすぐ7月。九州地方は既に梅雨明けの様子ですね。暑い日が続いていますが、「夜なかなか寝つけない」「夜中に何度も目が覚める」「早朝に目が覚めてしまい、その後眠れない」「ぐっすり眠れた感じがしない」という方はおられませんか。これらはすべて、程度の差こそありますが不眠症の症状と言えます。中年以降の方に多く見られる悩みで、長期間続くと日中の集中力や判断力の低下、気分の落ち込み、さらには生活習慣病の悪化にもつながることがあります。
では、なぜ不眠症は起きるのでしょうか。不眠の原因は一つではありません。仕事や家庭のストレス、生活リズムの乱れ、カフェインやアルコールの摂取、うつや不安といった心の病、あるいは睡眠時無呼吸症候群などの身体的な病気が背景にあることもあります。中年期は社会的責任が大きくなる一方で、加齢により睡眠の質そのものも変化していきます。そのため、単に「寝つきが悪い」といっても、その背景にはさまざまな要因が絡み合っているのです。
一人ひとり、個別の原因
不眠症の治療において最も大切なことは、まず「その人にとっての不眠の正体を正確に理解する」ことです。たとえば、寝つきに時間がかかる人と、夜中に何度も目が覚める人では、原因も対処法も異なります。また、「仕事の悩みで眠れない」のか、「血圧の薬の影響で夜中にトイレに起きてしまう」のか、「加齢による体内時計のずれなのか」——。不眠という結果の裏には、必ず個別の原因があります。
当院のアプローチ
当院では、こうした不眠の背景を丁寧に伺いながら、患者さん一人ひとりに合わせた治療を提案しています。特に重要視しているのが、非薬物療法と薬物療法のバランスです。
まず、非薬物療法の中心として行っているのが睡眠衛生指導と**認知行動療法(CBT-I)**です。睡眠衛生指導では、就寝前のスマホ使用やカフェイン摂取、運動のタイミング、寝室の環境など、日々の生活習慣を見直すことで、眠りやすい土台を整えていきます。さらに、近年医学的効果が確立されている「不眠に対する認知行動療法(CBT-I)」は、考え方の癖や誤った睡眠習慣を修正する方法で、薬に頼らず不眠を根本から改善する手段として高く評価されています。
一方で、症状が重い場合や心身の負担が大きい場合には、薬物療法も適切に取り入れます。当院では、従来のベンゾジアゼピン系薬剤だけでなく、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬といった比較的新しい薬剤を、作用時間や副作用リスク、翌日の持ち越し効果などを慎重に見極めながら使用しています。たとえば、夜中に目が覚めてしまう方には中途覚醒に特化した薬を選択したり、高齢の方にはふらつきを起こしにくい薬を優先したりと、医学的知見を踏まえたきめ細かい処方を心がけています。
また、必要に応じて簡易睡眠検査を導入し、睡眠時無呼吸症候群などの器質的な疾患の有無を評価することもあります。単なる「不眠」の背後に、治療可能な病気が隠れていることもあるため、そうした見落としがないよう丁寧に対応しています。
不眠は「我慢するもの」や「諦めるもの」ではありません。眠れない夜が続くことで生活の質が下がってしまっているなら、それは治療の対象です。気になる症状があれば、どうぞお気軽にご相談ください。あなたに合った眠りのかたちを一緒に見つけていきましょう。
ここまで読んで戴き有難うございます。
(両国横綱クリニック院長:総合診療専門医が院長の墨田区両国の内科、皮膚科、アレルギー科)